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【背景】
慢性統合失調症患者の約2割にも認められるとされる病的多飲の病態は、いまだ十分に解明されていない。病的多飲が重症化すると低ナトリウム血症を引き起こし、水中毒と呼ばれる、痙攣や意識障害、ときに死に至る重大な病態に発展する。したがって、病的多飲の起こりやすさを知ることは、統合失調症の治療において意義が大きい。我々はこれまでに、臨床遺伝研究で統合失調症の多飲患者が家系内に集積する傾向を報告した(Shinkaiら、2003)。すなわち、統合失調症の病的多飲には遺伝的要因が関与する可能性が示唆される。また、中枢におけるドーパミン神経系が飲水調節に関与すること、更に抗精神病薬(ドーパミン神経遮断薬)が多飲の要因となること、が指摘されている。これらの知見より、我々はドーパミンD2受容体(DRD2)の機能的個体差が統合失調症患者における多飲の発症に関与するという仮説を立てた。本研究では、三つのDRD2遺伝子機能的多型(−141CI/D多型,Ser311Cys多型,TaqIA多型)と統合失調症における病的多飲との関連を、症例対照研究にて検討した。
【方法】
対象は、長期入院中の慢性期統合失調症患者155名(病的多飲群64名、対照群91名)。本研究は産業医科大学倫理委員会の承認を得、対象者全員から書面を用いたインフォームドコンセントを得た上で行われた。末梢静脈血からDNAを抽出し、三つの遺伝子多型をPCR-RFLP法にて同定した。三多型間の連鎖不均衡の程度はLDMaxプログラムを用いて解析した。多重比較検定後の有意水準の補正値についてはSNPSpDプログラムを用いて算出し、多飲群と対照群における各遺伝子頻度、遺伝子多型をカイ二乗検定にて比較した。ハプロタイプ解析にはCOCAPHASEプログラムを用いた。
【結果】
多飲群と対照群の間で、TaqIA多型について遺伝子型、遺伝子頻度ともに統計学的に有意な分布差を認めた(遺伝子型:P=0.037,遺伝子頻度:P=0.011)。−141C I/D多型、Ser311Cys多型については、二群間で有意な差を認めなかった。ハプロタイプ解析では、ハプロタイプIns-Cys-A1の頻度で有意差を認め(P=0.00082)、ハプロタイプ全体の分布についても有意差を認めた(P=0.00091)。
【考察】
DRD2遺伝子の機能的三多型のうち、TaqIA多型と多飲との関連が認められた。多飲群ではTaqIA多型のA2アレルが有意に高頻度であった。TaqIA多型の機能的意義としては、A1アレルがDRD2の密度を低下させ、ドーパミン神経機能を低下させる多型として知られるが、一方で同じく抗精神病薬の長期投与による副作用として知られる遅発性ジスキネジアには、A2アレルが関連していたとする今回同様の報告もある。本研究では抗精神病薬の長期投与により発症した多飲に対し、A1アレルが防御的に関与している可能性が示唆された。また、ハプロタイプ解析においてハプロタイプIns-Cys-A1が対照群に7%の頻度で認められたのに対し多飲群には認められず、A1アレルが多飲に対して防御的役割を果たしている可能性を後押しする結果となった。ただし、TaqIA多型が、多飲に直接関連する未知の変異と連鎖不均衡の関係にある可能性も否定できない。
【結論】
DRD2遺伝子の機能的多型が、統合失調症における多飲の発症に関与している可能性が示唆された。より多くの症例による追試が必要だが、本研究結果はDRD2遺伝子多型が病的多飲の起こりやすさを知るひとつの手がかりになる可能性を示している。 |