4)その他


健常者での血中BDNF, MHPG, HVA濃度とストレスとの関連
三苫正恵、吉村玲児、宇都宮健輔、堀 輝、中野雄一郎、辻 尚志郎、新開浩二、上田展久、中村 純

産業医科大学精神医学教室

<緒言>
ノルアドレナリンの主要代謝産物である3-methoxy-4-hydroxyphenylglycol (MHPG)の髄液、血液、唾液中の濃度は不安障害やうつ病の病態と関連があるとの多くの報告がある。我々も薬物投与前の血中MHPG濃度がSSRI(paroxetine/fluvoxamine)とSNRI(milnacipran)への反応性の指標の一つになりうる可能性を報告した(Ueda et al, 2002; Shinkai et al, 2004)。また、最近MHPGが不安やストレスのstate markerとなるとの報告もある。一方、in vitroの実験で過剰のカテコールアミンが神経細胞のアポトーシスを促進するとの報告があり、これはカテコールアミンがbrain-derived neurotrophic factor (BDNF)に対して影響を及ぼしている可能性を示唆している。すなわち、精神的ストレスによるカテコールアミン神経系の過活動がBDNFに影響をおよぼし脳内に変化を来たし精神障害を誘発する可能性が考えられている。実際、うつ病やPTSDではBDNFの低下を介した海馬体積の減少が報告されている。血中MHPGは部分的に脳内のノルアドレナリン神経の活動性を反映しており(約30%が脳由来)、BDNFも血液脳関門を通過し、脳内と血中濃度の推移が一致し、さらにうつ病では血中BDNF濃度の低下が認められるとの報告もある。以上のことから、今回我々は精神的ストレスによる血中カテコールアミン動態の変化は血中BDNF動態にも影響をおよぼすとの仮説を立て、健常者を対象に精神的ストレスと血中BDNF, MHPG, homovanillic acid(HVA)濃度との関連を検討することによりこの仮説を検証した。
<対象と方法>
いずれの精神障害にも罹患しておらず、身体的にも健康である医療従事者103例を対象とした(M/F: 39/64, age: 36±12 yr)。午前8-10時の間に採血を行い直ちに遠心後(2000rpm, 20min)、血中(血漿中)MHPGと HVA濃度をそれぞれMinegishiとIshizakiの方法(1984)とYeungの方法(1996)によりHPLCを用いて測定した。血中(血清中)BDNF濃度は分析キットを用いてsandwich ELISA法にて測定した。また採血直前にStress and Arousal Check List (SACL)日本人版(神代, 2002)を用いて自覚的ストレスの程度を評価した。本研究は産業医科大学倫理委員会の承認を受けており、患者からは書面にて同意を得た。
<結果>
(1) 血中BDNF濃度と性別、年齢との間には有意な関連はなかった。(2)血中MHPG濃度と血中BDNF濃度との間には有意な関連が認められた(r=-0.220, p=0.027)。(3)血中HVA濃度と血中BDNF濃度との間には有意な関連はなかった。(4)血中BDNF濃度(r=0.282, p=0.033)および血中MHPG濃度(r=-0.218, p=0.026)とSACL得点との間には有意な関連が認められた。
<結論>
従来の研究結果と同様、血中MHPGが精神的な状態ストレスの程度を反映していることが示された。さらに、今回の結果から血中BDNF濃度は健常者における精神的ストレスの生物学的指標となる可能性があり、過剰なノルアドレナリン神経系の亢進がBDNFを低下させ、うつ病やストレス障害などの精神障害を引き起こす可能性が示唆された。


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