3)薬理遺伝分野


セロトニン受容体及びcytochromeP450 2D6遺伝子多型の組み合わせによるfluvoxamineの副作用予測
鈴木雄太郎、澤村一司、須貝拓朗、福井直樹、染矢俊幸

新潟大学大学院医歯学総合研究科精神医学分野

目的
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)による治療において、30〜40%の患者に嘔気、下痢などの消化器系副作用が出現し、SSRI治療中断の最大の原因と報告されている。SSRIの消化器系副作用はセロトニン(5-HT)2A受容体や5-HT3受容体を介して出現すると考えられているが、これら受容体遺伝子の多型と副作用との関連については十分な検討がなされていない。我々は昨年度、セロトニン5-HT2A受容体遺伝子多型がfluvoxamineによる消化器系副作用の予測因子となることを示したが、一方fluvoxamineの代謝にはcytochromeP450 (CYP) 2D6が関与しており、本酵素の活性を規定する遺伝子多型も副作用予測因子となる可能性が考えられる。本研究ではCYP2D6遺伝子多型が消化器系副作用出現の予測因子となることを新たに示し、更にこの多型と5-HT2A受容体遺伝子多型との組み合わせは、それぞれ単独に比べてより強力な副作用予測因子となることが示唆されたので報告する。

対象と方法
1.対象
対象は本研究に参加したうつ病患者100名で、平均年齢は40.2±15.0歳、男性47名、女性53名であった。初診時17項目ハミルトンうつ病評価尺度(HAMD)の平均は20.8±5.1点、診断の内訳は大うつ病性障害85名、適応障害7名、特定不能のうつ病性障害6名、その他2名。本研究は新潟大学医学部遺伝子倫理委員会の承諾を得ており、本研究内容を文書で十分に説明し、書面にて同意の得られた症例を対象とした。
2.用量設定・臨床評価・遺伝子型同定
初診時fluvoxamine 25mgで治療開始し、HAMD改善度に応じて最大200mgまで増量した。2週間毎に12週目まで全副作用評価を行った。消化器系副作用として嘔気、嘔吐、食欲低下、下痢、胃の痛み・不快感の有無を毎回評価した。
遺伝子型は5-HT2A受容体遺伝子のA-1438G多型及び、CYP2D6*5と*10変異をPCR法により同定した。

結果
5-HT2A受容体A-1438G遺伝子型の頻度は、A/A、A/G、G/Gそれぞれ29.2、42.7、28.1%であった。CYP2D6*5、*10のアレル頻度はそれぞれ3.6、38.1%であった。
Fluvoxamineによる消化器症状の出現についてCox回帰分析を行ったところ、A-1438G多型のGアレルの数は消化器系副作用出現に有意な影響を与え、G/G、A/G遺伝子型はA/A型に比べてそれぞれ2.926 (p=0.008; 95% CI, 1.321-6.481)、2.171 (p=0.041; 95% CI, 1.032-4.566) 倍副作用出現頻度が高かった。
CYP2D6遺伝子型によって表現型を2群に分け、*1/*1、*1/*10遺伝子型を正常代謝群、*10/*10、*1/*5、*5/*10遺伝子型を代謝低下群として分析した。Fluvoxamineによる消化器症状の出現について解析を行ったところ、代謝低下群は正常群に比べて1.821倍(p=0.043; 95% CI, 1.019-3.254)、消化器系副作用出現頻度が高かった。
CYP2D6表現型と5-HT2A受容体A-1438G遺伝子型とを組み合わせて分析したところ、代謝低下群でG/G(N=6)またはA/G(N=11)遺伝子型を持つ個体の副作用出現リスクは、代謝正常群でA/A遺伝子型を持つ個体に比べてそれぞれ4.242 (p=0.009; 95% CI, 1.444-12.459)、4.147 (p=0.004; 95% CI, 1.558-11.038)倍であり、代謝低下群でG/G型を持つ個体6名では全例で、代謝低下群でA/G型を持つ個体11名では9名(81.8%)に消化器系副作用が出現していた。更に、代謝正常群同士における分析ではG/G遺伝子型を持つ個体の副作用出現リスクはA/A型の2.491倍(p=0.051; 95% CI, 0.997-6.223)であった。

考察
薬力学的因子である5-HT2A受容体遺伝子多型と薬物動態学的因子のCYP2D6遺伝子多型がそれぞれ、fluvoxamineの消化器系副作用の予測因子になるだけではなく、これらを組み合わせることによって、より正確に副作用を予測できる可能性があることが示された。CYP2D6の代謝低下群で5-HT2A受容体A-1438G遺伝子多型のGアレルを持つ個体17名では、その内15名(88.2%)に消化器系副作用が出現しており、実際の臨床上、こうした個体に対してはSSRI以外の抗うつ薬を選択するか、慎重な用量設定を行う必要があると考えられる。また、本研究は薬物の治療効果及び副作用の予測因子を解析する際には、薬力学的個体差と薬物動態学的個体差の両者を検討する必要があることを示唆したという点で重要と考えられる 。

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