<緒言>
我々は統合失調症患者に対するrisperidoneへの反応性に関して以下のことを報告した(Yoshimura et al, 2000;
2003)。(1)risperidoneで陽性症状の改善が高い症例では投与前の血中HVA濃度が高値であり、症状の改善とともにHVA濃度が低下する。(2)risperidoneで陰性症状の改善が大きい症例では投与前の血中MHPG濃度が低値であり、症状の改善とともにMHPG濃度が上昇する。統合失調症の陰性症状は前頭前野でのカテコールアミン動態との関連も指摘されている。また前頭前野ではドーパミントランスポーターが存在しないため、ノルアドレナリンのみならずドーパミンの再取り込みもNATを通じて行われる。我々はin
vitroの実験でrisperidoneをはじめとする非定型抗精神病薬が臨床治療濃度でNATを阻害することを報告した(Yoshimura
et al, 2000; 2005)。以上の我々の研究結果は、risperidoneのNATへの作用が前頭前野でのカテコールアミン動態に影響を与えることにより精神症状を改善している可能性を示唆する。また、NATには少なくとも2つの遺伝子多型が存在しており(T-182C,
G1287A)、これらがNATの機能と関連している可能性がある。そこで今回我々は、(1)NAT遺伝子多型が血中カテコールアミン濃度や血中BDNF濃度を規定しており、risperidoneへの治療反応性と関係する、(2)risperidoneによる陰性症状の改善はBDNFの変化と関係している、との仮説を立て、NAT遺伝子多型の血中MHPG,
HVA濃度、血中brain-derived neurotrophic factor(BDNF)濃度におよぼす影響ならびにrisperidoneに対する反応性との関連を検討することによりこの仮説の検証を行った。
<対象と方法>
DSM-IVで統合失調症の診断基準をみたす75例(M/F:46/32, age:37±18 yr)を対象とした。risperidone投与量は1-8(平均3.8±1.3)mg/dayであった。risperidone投与前と投与4週間後に採血を行った。採血後直ちに遠心分離を行い、血中MHPG濃度はMinegishiとIshizakiの方法(1984)、
血中HVA濃度はYeungの方法(1996)、血中risperidone濃度はOlesenとLinnetの方法(1997)によりHPLCを用いて測定した。NATのgenotypingは末梢血からDNAを取り出し、real-time
PCRを用いたTaqMan法で行った。血中BDNF濃度は分析キットを用いてsandwich ELISA法により測定した。精神症状の評価はPANSS、錐体外路症状の評価はSimpson
and Angus(SAS)を用いて行った。本研究は産業医科大学倫理委員会の承認を受けており、患者からは書面にて同意を得た。
<結果>
(1)risperidoneによるPANSS陰性尺度得点(PANSS-N)の変化と血中MHPG濃度の変化との間には有意な関連が認められた(r=0.351,
p=0.041)。(2)NATの2つの遺伝子多型の遺伝子頻度はT-182C(TT/TC/CC: 23/33/19)、G1287A(GG/GA/AA:
35/37/8)であった。(3)NATの2つの遺伝子多型に関していずれもrisperidoneのactive moiety濃度に有意な差は認められなかった。(4)NATの2つの遺伝子多型とrisperidone投与後の血中MHPG,
HVA濃度および血中BDNFの変化には有意な関連はなかった。(5)NATの2つの遺伝子多型とrisperidoneによるPANSS陽性尺度得点(PANSS-P),
PANSS-Nの変化ならびにSAS得点との間には有意な関連はなかった。(6)PANSS-Nと血中BDNF濃度との間には有意な関連はなかった。
<結論>
以上のことから、(1)これらのNAT遺伝子多型(T-182C, G1287A)は血中カテコールアミン動態ならびにrisperidoneへの治療反応性および錐体外路症状発現とは関係していないと考えられる。(2)risperidoneのNAT阻害によるMHPG濃度の増加が統合失調症の陰性症状の改善に対して一部関係している可能性はあるが、このrisperidoneによるノルアドレナリン神経系への影響はBDNFの増加をもたらさなかった。但し、risperidoneによる血中カテコールアミンとBDNFの変化には時間的な相違(タイムラグ)も考慮する必要がある
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