<緒言>bipolar disorderに対する薬物療法のfirst lineはlithium,
valproic acid, carbamazepineの気分安定薬であるが、近年、olanzapine, quetiapine, risperidone,
perospironeなどの非定型抗精神病薬の有効性が報告されている。また、非定型抗精神病薬のbipolar disorder, 躁病相に関する報告は散見されるが、うつ病相への有効性を検討した研究は非常に少ない。我々は先行研究で、妄想性うつ病に対してrisperidoneによる治療が有効であることを報告している(投稿中)。そこで今回我々は、bipolar
disorderに対するrisperidoneの有効性を躁病相のみならずうつ病相に対しても検討した。今回の研究では、risperidoneによる臨床症状の推移のみならず、血中カテコールアミン代謝産物濃度および血中brain-derived
neurotrophic factor (BDNF)濃度の変化も同時に検討した。
<方法>DSM-IVのbipolar I disorderの診断基準を満たす12例を対象とした(M/F: 5/7 age: 40±25
yr, 7例がmost recent episode manic, 5例がmost recent episode depressed)。
躁状態の評価はYoung躁病評価尺度(YMRS)、うつ状態の評価尺度はHamiltonうつ病評価尺度(Ham-D)を用いて行った。また、risperidone投与前および投与4週間後に採血を行い血中3-methoxy-4-hydroxyphenylglycol
(MHPG), homovanillic acid (HVA)濃度、risperidone濃度をそれぞれMinegishiとIshizakiの方法(1984)、Yeungの方法(1996)、OlesenとLinnetの方法(1997)によりHPLCを用いて測定した。血中BDNF濃度は分析キットを用いてsandwich
ELISA法にて測定した。本研究は産業医科大学倫理委員会の承認を受けており、患者からは書面にて同意を得た。
<結果>(1)躁病相の患者では全例気分安定薬が併用されていた(lithium 4例, valproic acid 3例)。(2)risperidoneの投与量は躁病相に対しては平均3.3±0.6mg/day,
うつ病相に対しては平均1.1±0.8mg/dayであった。(3)躁病相の患者7例のYMRS得点の平均はrisperidone投与前、投与1,
2, 3, 4週後でそれぞれ22, 18, 12, 8, 5点であった。(4)うつ病相の患者では3例がrisperidone単剤投与2例でlithiumが併用されていた。(5)うつ病相の患者5例のHam-D得点の平均はrisperidone投与前、投与1,
2, 3, 4週後でそれぞれ24, 25, 21, 21, 19点であった。(6)躁病相の患者ではrisperidone投与4週間後に血中MHPGおよびHVA濃度が有意に低下していた。(7)うつ病相患者では血中MHPGおよびHVA濃度の有意な変化は認められなかった。(8)active
moiety (risperidone+9-hydroxyrisperidone)と臨床効果との間には有意な相関が認められなかった。(9)うつ病相患者では躁病相患者や健常者と比較して有意に血中BDNF濃度が低下していた。(10)躁病相患者およびうつ病相患者ともにrisperidone投与による血中BDNF濃度の有意な変化は認められなかったが、risperidone
(内用液) 0.5mg投与でHam-Dが50%以上改善していたうつ病相症例では血中brain-derived neurotrophic
factor (BDNF)の上昇が認められた。
<結論>bipolar disorderの躁病相に対してrisperidone投与が有効であった。一方うつ病相に対するrisperidoneの効果は明らかではなかった。また、risperidoneの薬理学的作用機序として、risperidoneはドパミンおよびノルアドレナリン神経へ影響を与えることにより躁病相を改善する可能性が示唆される。今回risperidoneのbipolar
disorder患者の血中BDNFに対する影響は明らかではなかったが、抑うつ状態改善症例ではrisperidone投与により血中BDNF濃度が上昇する可能性も示唆された。 |