1)統合失調症分野

高プロラクチン血症と骨密度 −統合失調症男性患者における調査−
岸本泰士郎1,2、渡邊衡一郎2、後藤晶子2,3、島田直樹4、牧田和也5、八木剛平6、鹿島晴雄2

1.大泉病院 2.慶應義塾大学医学部精神神経科学教室 3.鶴が丘病院 4.慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教室 5.慶應義塾大学医学部産婦人科学教室 6.翠星ヒーリングセンター

【背景】近年,統合失調症患者の骨粗鬆症有病率が高いことが明らかになり,統合失調症患者の骨密度・骨代謝に関する研究が散見されるようになった。統合失調症における骨密度低下の機序として,抗精神病薬による視床下部-下垂体-性腺系への抑制作用が推測されている。すなわち抗精神病薬の投与によってプロラクチン(PRL)が上昇すると,視床下部での性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)の分泌が抑制され,続いて下垂体での黄体化ホルモン(LH),卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌低下,さらに性腺でのエストラジオール,テストステロンなどの性ホルモンの分泌低下を来たし,閉経後骨粗鬆症様の骨代謝異常が生じるというものである。しかし,この仮説は先行研究で十分に証明されておらず,骨代謝とPRLとの関連に否定的な研究も少なくない。特に男性における骨密度低下の機序に関しては不明な点が多い。低骨量の危険因子には運動不足,カルシウムやビタミンD不足,喫煙などがあり,統合失調症患者ではそれらの危険因子を有することが多いため,PRLと骨代謝との関係を明らかにすることが困難であった。昨年の本会で我々は統合失調症女性患者における骨密度調査を報告した1)が,本年は男性患者を対象に骨密度を調査し,運動量や日照量の影響を考慮に入れ,男性における骨密度低下の機序について考察する。男性患者を対象とした研究では本研究が過去最大規模のものである。

【対象と方法】2005年2〜5月に大泉病院に入院していたICD-10の統合失調症,統合失調感情障害の診断基準を満たす35歳以上の男性患者86名のうち,本研究の趣旨を理解し署名による同意が得られた68名が研究に参加した(36〜78歳,平均年齢60.9±10.6歳,平均罹病期間36.6±11.3年,平均治療期間31.6±13.2年,平均総入院期間23.1±15.1年;骨代謝に影響を及ぼしうる疾患に罹患している者や治療を受けている者を除外した)。被験者は,2重エネルギーX線吸収計を用いて橈骨骨密度を測定した。また午前6時〜8時の間に採血し,PRL,FSH,LH,テストステロン,エストラジオール,1,25-ジヒドロキシビタミンD3(VitD3)を測定した。精神症状はBrief Psychiatric Rating Scale(BPRS)を用いて評価し,抗精神病薬投与量はクロルプロマジン(CPZ)量に換算した。また被験者は歩数計を48〜72時間装着し,24時間の平均歩数を計算した。その結果から5000歩/日未満,5000-9999歩/日,10000歩/日以上の低/中/高歩数群に分類し,骨密度を比較した。統計処理にはSPSS 12.0J for Windowsを使用して,2群間の平均値の差はStudent’s t-testまたはWelch’s testにより検定し,2変数の関連はPearsonの積率相関係数により検討した。なお本研究は大泉病院倫理委員会の承認を受けて行った。

【結果】全被験者の平均BPRS得点は39.0±11.1点,CPZ換算量は735.8±597.8mg/日であった。健常日本人男性の年齢階級別骨密度値と比較したところ,統合失調症群では全ての年齢階級において骨密度が低下しており,全9階級のうち6階級に健常リファレンスデータとの有意差(p<0.05)を認めた。低/中/高歩数群でZ値 (同年齢の骨密度平均に対する標準偏差) に有意差はなく,喫煙群/非喫煙群でもZ値に有意差はなかった。高PRL血症は87%に認め,VitD3は1例を除いて正常であった。高PRL群と正常PRL群の比較から,高PRL群は有意ではないがZ値が低い傾向にあり,内分泌検査ではFSH,LHが低値の傾向,エストラジオールは有意に低値であった(p<0.05)。PRL値とZ値との相関は認められなかったが,正常PRL群では罹病期間とZ値との間に有意な負の相関(r=-0.69,p<0.05)を認め,高PRL群では治療期間とZ値との間に有意な負の相関(r=-0.27,p<0.05)を認めた。

【結論】男性統合失調症患者,特に高PRL群で,運動量,喫煙の有無,VitD3値に関わらず骨密度が低下していた。高PRL群では下垂体からの性腺刺激ホルモン(FSH,LH)が低下しており,エストラジオールの低下に関与していると推測された。これは今まで証明し得なかった高PRL血症による視床下部-下垂体-性腺系への抑制仮説を支持する結果であり,意義深い。正常PRL群では罹病期間が長いほど骨密度が低下しており,精神症状に伴う生活障害が低骨量の複数の危険因子を含んでいる可能性が考えられた。またPRL値とZ値との間に相関は認められなかったものの,高PRL群で治療期間が長いほど骨密度が低下していたことから,PRL値自体よりも高PRL血症の持続期間が骨密度低下に影響する可能性が示された 。

 参考文献
  1. Kishimoto T et al. Schizophrenia Research 2005;77(1):113-5

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