目的
慢性不眠症患者は早い時刻から服薬・就床し、少しでも長く睡眠をとろうとするが、無効であることが多い。睡眠・覚醒傾向の概日リズムにより、いつも入眠している前の数時間は一日の中で最も入眠しにくい時間帯であり、睡眠薬の効果も減弱する可能性がある。
いつも入眠している時刻よりも早い時間帯に服用することで、超短時間型睡眠薬トリアゾラム(TRZ)の主作用・副作用に違いがあるかを、若年健常被験者において時間生物学の手法を用いて検討した。
対象と方法
若年健常者14名(21.6±2.4歳、18-26歳)を対象とした。プロトコールは当センター倫理審査委員会の承認を得、被験者からは書面による同意を得た。実験は国立精神・神経センター精神保健研究所の睡眠・生体リズム研究・治療ユニットにおいて、外界より隔離された恒常環境(室温
24.0±0.1℃、湿度 50±1%、食事:2時間ごと150kcal)で行った。
睡眠負債による影響を最低限とし、TRZと概日リズムによる影響だけを観察するために、実験1日日目14時より実験3日目16時まで50時間にわたり40分間シールドルームで就床し、80分間離床してリビングルームで過ごすスケジュールを25回繰り返した。睡眠ポリグラフによる客観的睡眠指標と、質問紙による主観的指標、ふらつき(Mannテスト、継ぎ足歩行)、単純反応時間を2時間ごとに測定した。就床30分前に毎回不透明なカプセルを服用させ、28時間のベースライン記録(BL日)後の2日目に1回だけTRZ
0.25 mg入りカプセルを投与した。被験者を2群に分け、E群は2日目18時、L群は3日目0時に二重盲験法によりTRZを投与した。
TRZ服用後18時間分(9周期分)を、TRZの作用(BL日vsTRZ日)、服薬時刻の作用(E群vsL群)について、服用後2時間ごとに繰り返し分散分析(1
between 1 within)で解析した。
結果
E群とL群の間に、年齢、朝型夜型得点、ベースライン記録中の概日リズム位相の指標である深部体温最低点、メラトニン分泌開始点・中間点・終了点に有意差はなかった。。
TRZの有意な作用は以下でみられた。客観的睡眠が服用2.5-4.5時間後に増強(覚醒時間・入眠潜時の減少、徐波睡眠の増加)、ふらつきは1-8時間後に増強し、単純反応時間は1-5時間後で延長した。主観的入眠潜時は服用2.5時間後に短縮、主観的睡眠時間は4.5時間後に延長したが、主観的睡眠深度は服用直後、4.5-6.5時間後で深まり、8.5時間後と12.5時間後にはリバウンドにより浅くなった。主観的覚醒度は就床前には服用後2.5-4.5時後で低下し、起床時にも3.2時間後に低下した。主観的覚醒度のリバウンドは就床前には服用後14.5-16.5時間で出現したが、起床時には、服用後6.5-14.5時間後に出現した。
服用時刻によるTRZの効果の逆転は以下でみられた。覚醒時間、入眠潜時は服用0.5時間後にL群で増加し、E群で減少した。徐波睡眠は服用4.5時間後にE群で増加、L群で減少した。REM睡眠は服用6.5時間後にE群で増加しL群で減少した。主観的睡眠深度は服用8.5時間後にE群で深まり、L群で浅くなった。
まとめ
若年健常成人ではTRZにより、1)服用後約5時間にわたり客観的睡眠が増強するが、2)主観的指標はこれと平行せず、3)服用約6時間後より主観的指標にリバウンドが出現し、4)リバウンドにより主観的覚醒度が上昇した後もふらつきが残存した。
服用時刻によるTRZの作用逆転が観察され、1)普段の就床時刻に服用するよりも、夕方早い時刻に服用した方が、催眠作用とリバウンドが増強し、2)これらは服用直後と服用後4.5-8.5時間に出現した。
考察
若年健常被験者においては、TRZ 0.25 mgは概日リズムによる睡眠・覚醒傾向の変化を上回る催眠作用を示した。より少ない用量での作用の検討が必要である。
服用時刻によるTRZの作用逆転が観察されたが、今回はTRZの血中濃度を測定していないため、薬物代謝速度と薬物受容体感受性のいずれが概日リズム位相により影響を受けたのかは判別できない。
不眠症患者が早い時刻に超短時間型睡眠薬を服用したすると、リバウンドによる主観的睡眠深度低下や主観的覚醒度上昇が夜中から朝まで持続し、さらに強く不眠を自覚すると考えられる。 |