| 統合失調症における長期予後とドパミン関連遺伝子多型の関係について |
古郡 規雄1、岩島 久美子1、斉藤 まなぶ1,2、金田 絢子1,2、中神 卓1,3、兼子 直1
1.弘前大学医学部神経精神医学講座 2.黒石あけぼの病院 3.弘前愛成会病院 |
[緒言] 統合失調症の治療には抗精神病薬の投与が必須とされているが、約20-30%の症例は治療に抵抗性を示す。われわれは、急性期の統合失調症患者において、ドパミン受容体遮断薬を中心とした定型抗精神病薬に対する治療反応性は、TaqI
Aおよび-141C Ins/Del dopamine D2受容体遺伝子多型におけるA1 遺伝子(+)の郡で陽性症状の改善率が高く(Suzuki
et al., 2000)、Del 遺伝子(−)郡で不安・抑うつ症状の改善率が高いことを示した(Suzuki et al., 2001)。また、上記の組み合わせにおいてA1
遺伝子(−)/Del 遺伝子(+)のdiprotype群のみが際立って治療抵抗性を示すことを明らかにした(Kondo et al.,
2003)。そこで、本研究では長期経過を観察した慢性期の統合失調症患者において、ドパミン関連遺伝子多型の検索を行い、難治化の予測可能性について検討した。
[方法] 本研究に対し書面にて同意の得られた発病10年以上の統合失調症患者224名(男性142名:女性82名)を対象とした。対象の年齢および罹病期間の平均±SDは51±12才、25±12年であり薬物投与量(CP等価換算)の平均±SD(範囲)は855±622(0-3250)mg/dayであった。全対象がDSM-IVの統合失調症の診断基準を満たしていた。平均全対象から5mlの採血を行い、DNAを抽出した。ドパミンD2受容体(DRD2)(Taq1A,
-141C Ins/Del, Ser311Cys)およびDRD3(Ser9Gly)、DRD4(C-521T)およびカテコールアミンメチルトランスフェラ−ゼ(COMT)(Val158Met)の遺伝子多型解析を行った。遺伝子解析にはPCR-RFLP法およびAssays-by-Design?
SNP genotyping system (Applied Biosystems)によるTaqMan assayを使用した。治療抵抗性はBPRSスコアおよびBrennerの治療反応性尺度を用いた。統計解析にはSSPSを用い、単回帰、ANOVAおよび重回帰分析を行った。P<0.05を統計学的有意とした。本研究のプルトコルは三省合同のヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針に基づき作成され、弘前大学医学部倫理委員会にて承認を得ている。
[結果]
BPRSスコアおよび治療反応性と年齢、罹病期間には相関がなかったが、薬物投与量に有意な正の相関が認められた。Taq1A(r=0.018,
ns)、-141C Ins/Del(r=0.066, ns)、Ser311Cys(r=-0.006, ns)、DRD3(r=0.074,
ns)およびDRD4遺伝子多型(r=0.076, ns)とBPRSスコアとの間に相関はなかった。また、Taq1A(r=-0.037,
ns)、-141C Ins/Del(r=0.025, ns)、Ser311Cys(r=-0.003, ns)、DRD3(r=0.092,
ns)およびDRD4遺伝子多型(r=0.048, ns)と治療反応性尺度との間にも相関はなかった。Taq1Aおよび-141C Ins/Del多型の組み合わせた4群にも関連は得られなかった。COMT遺伝子多型はBPRSスコアでも(r=0.182,
p<0.01)治療反応性尺度でも(r=0.159, p<0.01)有意な相関が認められ、Met遺伝子を持つ方が治療抵抗性を示した。上記の遺伝子多型および基本情報を独立変数にし、BPRSスコア(beta=0.184,
p<0.01)およびBrennerの治療反応性尺度(beta=0.160, p<0.05)を従属変数とし、多重回帰を行った場合にもCOMT遺伝子多型にのみ有意な相関が認められた。一方、重相関係数はBPRSスコア(R=0.222,
ns)でも治療反応性尺度(R=0.200, ns)でも有意な相関を得るには至らなかった。
[考察] COMTはドパミンやノルアドレナリンのようなカテコ−ル系化合物を不活性化する酵素であり、ドパミン系の代謝には極めて重要な役割をもっている。その酵素活性に変化を及ぼすCOMT遺伝子の研究はさまざまな精神疾患や行動・人格特性との関連研究が報告されている。本研究において慢性経過の統合失調症患者における薬物治療反応性を予測する上で、ドパミン関連遺伝子多型のうちCOMT遺伝子多型に有意な相関が認められ、Met遺伝子を持つ症例が治療抵抗性を示した。この結果はInadaら(2003)の予備的研究でCOMT遺伝子多型と治療抵抗性について報告したものと一致する。本研究の結果は低COMT活性を示すMet遺伝子が高い攻撃性や前頭葉前部の皮質の高機能を示すことに関連しているかもしれない。今後、モノアミン酸化酵素(MAO)と本研究で用いたVal158Metとの組み合わせでドパミン代謝の個人差をさらに正確に予測することが可能となり、治療抵抗性予測の強力なツールになる可能性が示唆された。一方、本研究で示された通り、COMT遺伝子多型のみで薬物治療反応性を完全に予測することは容易でなく、家庭環境、社会支援状況を踏まえた包括的解析が必要であると考えられた。 |
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