1)統合失調症分野

統合失調同一患者におけるリスペリドンとオランザピン治療における耐糖能比較試験
佐藤靖1、2、古郡規雄1、中神卓1、3、斉藤まなぶ1、4、古郡華子4、兼子直1

1.弘前大学医学部神経精神医学講座 2.大館市立総合病院 3.弘前愛成会病院 4.黒石あけぼの病院

[緒言] 統合失調症患者は一般人口に比較し、平均寿命が20%短い。この原因に自殺、突然死、病死、特に心血管性疾患、感染症、内分泌疾患などが挙げられる。近年、非定型抗精神病薬服用者に2型糖尿病や体重増加のリスクが高いと報告され、薬剤性の耐糖能障害や糖尿病の可能性が示唆された。これまで薬剤ごとに耐糖能の比較試験が行われ、オランザピンやクロザピンではインスリン抵抗性に伴う糖代謝異常を示す報告が散見される。しかし、これらの研究では体重や肥満、家族歴などの糖尿病ハイリスク郡には無意識にリスクの低い薬物を使用していた可能性がある。そこで今回われわれは同一患者でのリスペリドンとオランザピン使用時の耐糖能について比較した。

[方法] 対象は糖尿病に罹患しておらず、8週以上リスペリドンあるいはオランザピンで治療中の21例の精神科患者であり、すべての症例がDSM-IVで統合失調症の診断基準を満たしていた。平均年齢±SDは48±14才であった。副作用あるいは効果不十分のため他剤にスイッチングをする直前に経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)を施行し、他剤に固定後、8週経過したのち再びOGTTを施行した。リスペリドンからオランザピンに切り替えた症例が10例、その逆が11例であった。OGTTは75gの経口ブドウ糖(トレーランG)の服用直前(0)および服用30、60、120分後に採血を行い、血糖値およびインスリン値を測定した。0分のレプチン値と0および120分の赤血球ソルビトール値を測定した。血糖値、インスリン、赤血球ソルビトール、レプチン値は外注(SRL)にて測定した。なお、本研究は弘前大学医学部倫理委員会にて承認され、全対象から書面での同意を得た後実施された。

[結果] リスペリドンとオランザピンのクロルプロマジン等価換算量では差はなかった。体重はオランザピン使用時の方が有意に多かった(64.8±10.3 vs 66.3±10.4kg, p<0.05)。リスペリドンとオランザピン使用時の空腹時血糖値は(98±14 vs 101±13 mg/dl, ns)で差がなかったが、インスリン値はオランザピン使用時の方が有意に高かった(8.6±7.6 vs 13.0±11.7 mU/ml, p<0.01)。両剤使用時の血糖値の変化パターンに差はなかったが、インスリン分泌パターンには有意差が認められた(2-way ANOVA, p<0.05)。リスペリドン投与中の値に比較し、オランザピン投与中のインスリン抵抗性を示すHOMA-IR (2.14±1.93 vs 3.46±3.23, p<0.01)およびΣISI (220±126 vs 285±131 mU/ml, p<0.05)が有意に高かった。一方、インスリン分泌能を示すInslinogenic Index( インスリン)は両剤の間に差はなかった(0.92±0.62 vs 0.93±0.65, ns)。糖尿病性神経障害との関連が示唆されている赤血球ソルビトール値はOGTT前(36.0±12.7 vs 37.7±13.2 nmol/g.Hb, ns)、 120分(41.6±14.8 vs 43.4±14.0 nmol/g.Hb, ns)ともに差はなかった。レプチン値はオランザピン投与時の方が有意に高かった(14.5±20.6 vs 16.5±16.2 mU/ml, p<0.05)。

[考察] これまでKollerらはFDAの調査を基にリスペリドン(2003)とオランザピン(2002)ともに糖尿病を引き起こすリスクを報告しているが、どちらの薬剤がそのリスクが高いのか直接検討するためには、他剤に切り替えた結果を調査するしかない。本研究は、初めて同一患者でリスペリドンとオランザピンの耐糖能の直接的な比較検討を試み、オランザピン使用時の方がインスリン抵抗性を強めるという結果を得た。この結果は、これまでのオランザピンで治療を受けている患者群は健常コントロ−ル群に比較し血糖値が高く、耐糖能が低いというNewcomerら(2000)の報告や非定型抗精神病薬の中でもクロザピンやオランザピンが耐糖能異常を起こしやすいというHendersonら(2005)の群間比較研究の結果を支持するものであった。一方、インスリン分泌能には薬剤による影響はなく、この結果もHendersonら(2005)の群間比較研究の結果と一致した。また、その臨床的意義は不明確であるが、レプチン値はオランザピン投与時に高かった結果もこれまでの報告(Melkerssonら、2000)と矛盾しない。抗精神病薬のアルド−ス還元酵素系に与える影響を調べた報告はこれまでない。その指標である赤血球ソルビトール値は両剤で差はなかったが、異常値を示す症例も約半数存在したため、その正確な臨床的意義の解明が待たれるところである。以上より、オランザピンを使用する場合は頻回に耐糖能検査を行い、糖尿病発病を防ぐための食事指導を含めた生活指導を要すると考えられた。

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