オランザピンによる体重増加における遺伝子ファクターの解析
野村 晃1, 氏家 寛1, 田中 有史1, 内田 有彦2, 今村 貴樹3, 大谷 恭平1,
森田孝義1, 岸本 真希子1, 黒田 重利1
1) 岡山大学大学院医歯学総合研究科精神神経病態学分野
2) 西川病院
3) 山陽病院
【 目的 】オランザピンを始めとする第2世代非定型抗精神病薬は、従来薬と比べ様々な利点があり急速にその使用が増加している。しかし、体重増加や耐糖能異常を来す危険性があることが認められ、近年大きな問題となっている。オランザピンは本邦で使用されている抗精神病薬の中で最も体重増加の頻度が高く、その発症には個人差が大きいことが知られている。薬剤投与以前に有害作用発現が予測できればより安全な治療導入が可能となることが考えられる。本研究では、肥満の遺伝子リスクファクターを候補遺伝子として、オランザピン投与による体重増加との関連を調べた。
【 方法 】対象は、2001年6月から2003年6月の間にオランザピンを投与開始し、8週間以上継続投与された統合失調症圏内の患者(ICD-10:F2)全例をピックアップし、体重に影響を与える身体合併症を持つ患者や治療上研究の参加に問題となる患者等を除外し、その中から同意が得られた174名(男性104名、女性70名、平均年齢53.5±11.8歳)である。食事の影響を小さくするため入院患者に限定した。体重は、オランザピン投与前から中止まで、もしくは投与開始後最長1年間まで追跡した。解析遺伝子部位として、セロトニンレセプター群5HT2A;452His/Tyr, 102T/C、5HT2c;-759C/T, 23Cys/Ser、5HT6;267T/C、ヒスタミンレセプター群H1;449Leu/Ser、H2;-1018G/A、ドーパミン2レセプターTaqIA、β3アドレナリンレセプター64Trp/Arg、グレリン72Leu/Met、腫瘍壊死因子(TNF)a;
-308G/A, -857C/T、TNFレセプター群TNFRSF1A;36A/G, TNFRSF1B;196Met/Argの14の部位について、PCR-RFLP法を行った。各対象者の体重変化のピークを調べ、その際のBody
Mass Index (BMI)値と投与前BMI値との差をBMI
変化値(vkg/m2)として算出し、減少群(v<-1, N=25)、無変化群(-1≦v<1, N=68)、増加群1(1≦v<2, N=50)、増加群2(2≦v<3,
N=18)、増加群3(v≧3, N=13)に分類し、それらと各遺伝子型分布・対立遺伝子頻度とを比較検討した。
【 結果と考察 】体重増加群(N=81)の平均BMI変化値は2.1±1.5kg/m2であった。臨床データの検討では、BMI変化値とオランザピンの治療効果との間に、Spearmanの順位相関により正の相関が認められた(p=0.0017)。BMI変化値群と各候補遺伝子との相関では、TNF-a-308G/A多型との間に有意な相関(遺伝子型分布p=0.009、対立遺伝子頻度p=0.0001)を認めた。変異アレルを持つ患者の平均BMI変化値は1.8±1.4kg/m2であった。この対立遺伝子を持つ患者は15人と少なかったが、例外なくBMI変化値が正の値であった。クロザピンによる体重増加の危険因子として報告された5HT2cレセプター(-759C/T)は本研究では相関を認めなかった。また残りの12の遺伝子多型についても相関は認められなかった。体重増加には種々の要因が影響していることから、ステップワイズ回帰法により、オランザピン投与量、投与前重症度、併用された抗精神病薬のハロペリドール当量値、罹病期間は、体重増加の要因から除外された。除外されていない要因である性別、年齢、投与前BMI値、投与期間、治療効果をロジスティック回帰分析にて補正を行ったが、TNF-a-308G/A多型と体重増加は有意な相関を認めた。TNF-aは脂肪細胞においても発現が認められ、肥満によりその発現が増加し、インスリン耐性を惹起し、リポ蛋白リパーゼ活性を抑制することが知られている。TNF-a-308G/A多型は肥満との関連が示唆されており、この多型はプロモーター領域に存在し、変異遺伝子は野生種よりTNF-aの発現が多いという報告がある。一方、オランザピン投与により、血中のTNF-aレセプターが増加することも報告されている。この変異遺伝子を持つ個体にオランザピンを投与すると、持たない個体より、脂肪細胞内でのTNF-aの発現が増し、体重増加を惹起しやすいことが考えられる。以上のことから、日本人ではTNF-a遺伝子-308A多型がオランザピン投与による体重増加の危険因子であることが示唆された。
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