Risperidoneとparoxetineの薬物相互作用

斉藤 まなぶ1, 古郡 規雄2, 中神 卓1, 古郡 華子1, 兼子 直1

1) 弘前大学医学部神経精神医学講座
2) 弘前大学医学部臨床薬理学講座

陰性症状は統合失調症において重要な症状であり、社会的あるいは職業的機能低下と関連が深い。非定型抗精神病薬は定型抗精神病薬に比較し、有意に陰性症状を改善させるが、臨床的に十分な効果とは言い難い。一方、セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)の追加投与の有用性も示唆されているが、SSRIであるparoxetine(PXT)はrisperidone(RIS)の代謝酵素であるチトクロームP450(CYP)2D6に対して強力な阻害作用を持つため薬物相互作用の危険性が考えられる。今回われわれはRIS、9-hydroxyrisperidone (9-OH-RIS)及びactive moiety (RIS+9-OH-RIS)に与えるPXTの用量依存効果について研究し、またその治療効果と副作用の程度につき検討した。
 対象は本研究に対し書面にて同意の得られたRIS(4mg/day)による治療を受けているものの、陰性症状の持続する統合失調症患者12例(男5:女7)であった。年齢及び体重はそれぞれ52.3±10.3(33-67)歳、67.6±8.2(57-83)kgであった。対象にPXT10mg/dayを4週間追加投与し、20mg/day、40mg/dayと4週間毎に増量した。PXT 追加前および各追加投与後4週目のRIS服薬12時間後に採血(10ml)を行い、血漿RIS及び9-OH-RIS濃度をLC-MS-MSにて測定した。またCYP2D6*2,*3,*4,*5,*10,*14をPCR法にて同定した。採血と同時に臨床症状及び副作用をPANSS(Positive and Negative Syndrome Scale)、CDSS(Calgary Depression Scale for Schizophrenics)及びUKU(Udvalg for Kliniske Undersogelser)副作用スケ−ルにより行った。なお本研究は3省合同のヒトゲノム遺伝子解析研究に関する倫理指針に基づきプロトコルが作成され、弘前大医学部倫理委員会の承認後、実施された。
 RISの血漿濃度はPXT10mg/day、20mg/day、40mg/day併用にはそれぞれ3.8倍(95%信頼区間, 3.2- 5.8倍, p<0.01)、7.1倍(5.3-16.5倍, p<0.01)、9.7倍(7.8-22.5倍, p<0.01)に増加した。9-OH-RIS濃度は有意差なく、active moietyはPXT40mg/day追加時のみ1.8倍(1.4-2.7倍, p<0.05)と増加した。CYP2D6 genotypingは*1/*2が2名、*1/*10が6名、*2/*10が1名、*10/*10が2名、*5/*10が1名であり、機能低下をきたす変異遺伝子(CYP2D6*5および*10)の数により3グループに分類した。PXT各投与量併用時のRISの血漿濃度増加率は、変異遺伝子のない群では722±393%、2358±2072%及び2613±2508%、変異遺伝子が1つの群では485±174%、1101±712%及び1742±1163%、変異遺伝子が2つの群では188±72%、207±52% 及び257±45%と変異遺伝子数の増加に伴い、増加率が低下する傾向が見られたが、各genotypeのサンプル数が少ないため、これらの値に統計学的有意差はなかった。一方、CYP2D6活性を反映するbaselineでのmetabolic ratio(RIS/9-OH-RIS)とPXTによるRIS血漿濃度の増加率は追加するPXTのすべての用量で有意な相関が得られた(10mg/day:rs = -0.671,p<0.05、20mg/day:rs = -0.804,p<0.01、40mg/day:rs = -0.832,p<0.001)。平均陰性症状スコアはPXT10mg/day、20mg/day、40mg/day併用においてそれぞれ有意(p<0.05,p<0.01,p<0.01)に改善したが、副作用において錐体外路系症状ではPXT20mg/day、40mg/day併用時にそれぞれ有意 (p<0.05,p<0.05) に悪化し、UKU総得点でもPXT40mg/day投与時に有意 (p<0.05) に悪化した。CDSSは研究期間を通して差はなかった。
 今回の研究により、PXTはRISの代謝酵素であるCYP2D6に対し強力な阻害作用を有し、RIS及びactive moietyの血漿濃度はPXTの用量に依存的に増加することが示された。またこの相互作用の大きさはCYP2D6活性に依存することも確認された。臨床症状ではRISに対するPXT投与は、陰性症状改善の可能性を示唆するものであった。一方PXT増量に伴う副作用の悪化も見られたことから、陰性症状改善目的に追加投与する場合、PXTは低用量の使用が安全かつ有効であることが示唆された。

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