ノルエピネフリントランスポータ遺伝子多型はミルナシプランの治療反応性を予測する

吉田 契造1, 高橋 一志1, 樋口 久1, 鎌田 光宏1, 伊藤 研一1, 佐藤 和裕1, 
内藤 信吾1, 清水 徹男1, 伊藤 邦彦2, 井上 和幸2, 鈴木 敏夫2

1) 秋田大学医学部精神科
2) 秋田大学医学部附属病院薬剤部

 セロトニントランスポータ(5-HTT)は、選択的セロトニン再取込み阻害薬(SSRI)の直接的な作用部位であることから、その遺伝子多型とSSRIの抗うつ効果との関連について研究が行われてきた。最近、新世代抗うつ薬セロトニン・ノルエピネフリン再取込み阻害薬(SNRI)のひとつであるmilnacipranが導入され、その治療効果を予測することはうつ病薬物治療を効率良く行う上で重要である。SNRIは5-HTTだけでなくノルエピネフリントランスポータ(NET)にも作用して抗うつ効果を発現するため、我々はそれぞれの遺伝子多型がmilnacipranの抗うつ効果におよぼす影響について検討した。
 大うつ病性障害(DSM-IV)の診断基準を満たし、試験開始前2週間は向精神薬を服用しておらず、Montgomery and Asberg depression rating scale(MADRS)スコアが21点以上の、20歳以上70歳未満の患者96名を対象とした。試験期間中は、brotizolam 0.25?0.5mg/day以外の向精神薬は併用しなかった。Milnacipranを1週目まで50mg/day、以降は100mg/dayの用量設定で、夕食後と就寝前に等量ずつ6週間にわたり投与した。抑うつ症状の変化を、MADRSを用いて投与開始前および1,2,4,6週間後に評価した。試験終了時にMADRSスコアが試験開始前に比べて50%以上低下した患者をresponder、50%未満しか低下しなかった患者をnonresponderと定義した。採血は、試験開始から4週間経過した時点で、就寝前服薬から約12時間後に行った。PCR法を用いて遺伝子型を決定し、高速液体クロマトグラフィーを用いてmilnacipranの血中濃度を測定した。96名の患者が試験に導入され、そのうち86名が試験を終了した。6名の患者がpoor complianceのため解析対象から除外され、最終的に解析対象となったのは80名、その内訳は外来患者49名:入院患者31名、男性28名:女性52名であり、平均年齢は51.4±12.2歳であった。Responder群とnonresponder群の間で、性別、年令、前病相回数、メランコリアの有無について有意差はみられなかった。
 NET T-182C多型各遺伝子型患者群におけるMADRSスコアの経時変化では、C/C型患者群においてスコアが減少しにくい傾向があったが、各遺伝子型患者群の経時変化は有意差を呈するに至らなかった。Responderおよびnonresponder群における遺伝子型分布については、responder群ではT/T型の患者が46%を占めたのに対して、nonresponder群では23.3%に過ぎず、有意差がみられた。対立遺伝子頻度においても、responder群ではT型が72%であるのに対して、nonresponder群では55%であり、有意差がみられた。これらの結果から、T型対立遺伝子の存在が優れた抗うつ効果に関与している可能性が示唆された。
 NET G1287A多型各遺伝子型患者群におけるMADRSスコアの経時変化では、A/A型患者群とG/A型患者群の間に有意差がみられ、A/A型患者では抗うつ効果の発現が遅れる可能性が示された。Responderおよびnonresponder群の間では、遺伝子型分布・対立遺伝子頻度のいずれにも有意差はみられず、G1287A多型は抗うつ効果の発現時期に影響をおよぼすが、最終的な治療反応性には影響を与えないことが示唆された。
 5-HTTLPRおよび5-HTTVNTR多型に関しては、各遺伝子型患者群の間でMADRSスコア経時変化に有意差はみられず、また、responder群とnonresponder群の間で遺伝子型分布・対立遺伝子頻度のいずれにも有意差はみられなかった。これらの多型は抗うつ効果発現の経時変化にも、最終的な治療反応性にも影響を与えないことが示唆された。
 本研究は、NET遺伝子多型はmilnacipranの抗うつ効果に影響をおよぼし、5-HTT遺伝子多型は影響をおよぼさないことを示した。NET T-182C多型のT型対立遺伝子は優れた抗うつ効果に関連し、G1287A多型のA/A遺伝子型は抗うつ効果発現の遅れに関連していた。T-182C多型によりどのような機能的変化が生じるのかについては、現在のところ明らかでない。その知見が報告されれば、今回の研究結果の理解に役立つだろう。G1287A多型はsilent mutationと報告されている。しかし、ノルエピネフリン代謝物であるMHPGの髄液中濃度はG/G遺伝子型の患者で有意に高かったと報告されている。G1287A多型は未知のfunctional mutationと遺伝的不均衡の関係にある可能性がある。MHPGの髄液中濃度が高いということは、ノルエピネフリンの再取込みおよび分解が活発に行われている状態が考えられる。A/A遺伝子型の患者では元来再取込みが不活発なため、再取込み阻害による薬理効果がゆっくりと現れてくるのかもしれない。Milnacipranを投与した場合に、SSRIの場合と異なり5-HTT多型が抗うつ効果に影響を及ぼさない機序は明らかでなく、議論のあるところである。

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