| 5-H1A受容体遺伝子多型を用いたFluvoxamineの治療初期効果予測
鈴木雄太郎、澤村一司、染矢俊幸
新潟大学大学院医歯学総合研究科精神医学分野
[目的] 抗うつ薬の投与開始から臨床効果発現までにある程度の時間経過を必要とすることは臨床的に大きな問題であるが、近年シナプス細胞体におけるセロトニン1A(5-HT1A)自己受容体がSSRIの治療効果発現の遅れと関係している可能性が示唆されている。また、pindololなどの5-HT1A受容体アンタゴニストの併用により、SSRIの臨床効果発現が早まる可能性もいくつかの論文で報告されている。一方、5-HT1A受容体遺伝子にいくつかの遺伝子多型がみつかり、これら多型が5-HT1A受容体機能に影響を与えると考えられているが、これら多型と抗うつ薬の臨床効果との関係を検討した研究はほとんどない。そこで本研究では5-HT1A遺伝子多型がfluvoxamine(FLV)の初期臨床効果に及ぼす影響を検討し、有意な結果を得たので報告する。また、近年セロトニントランスポーター遺伝子多型(5-HTTLPR)とSSRIの抗うつ効果についていくつかの研究が行われているが、明確な結論は得られていない。本研究ではFLVの臨床効果と5-HTTLPRとの関係についても検討したので合わせて報告する。
[対象と方法] 本研究は新潟大学医学部遺伝子倫理委員会の承認を得て行われた。対象は研究内容を文書で十分に説明し、書面にて同意を得たうつ病外来患者68名。診断の内訳は大うつ病性障害57名、適応障害6名、特定不能のうつ病性障害4名、その他1名であった。初診後FLVで治療開始し、以後は2週間毎に12週目までHAMD・副作用評価をおこない、前回受診時と比較してHAMD改善率が40%未満の場合はFLVを50mg間隔で最大200mgまで増量した。HAMD得点が7点以下となった寛解例についてはその時点でのFLV用量を最終用量とし、以後は増量しないこととした。
遺伝子型は5-HT1A受容体のGly272Asp多型と5-HTTLPR のL型、S型をPCR法により同定した。
[結果と考察] 本研究に参加したうつ病患者68名の平均年齢は40.9±15.2歳、男性34名、女性34名であり、初診時HAMDは平均20.1±5.6点であった。遺伝子型の頻度は5-HT1A受容体のGly/Gly、Gly/Asp、Asp/Asp型はそれぞれ59、8、1名であり、これら多型を有する各群間で初診時HAMD得点に有意差は認められなかった。5-HT1A受容体遺伝子にはいくつかの多型がみつかっているものの、本邦においては非常に頻度の少ないものが多い。本研究で同定したGly272Asp多型は日本人を対象とした研究で最近新しく発見された多型であり(Kawanishi et al, 1998)、本研究における遺伝子頻度は先行研究で報告されているものとほぼ同様であった。
5-HTTLPRのS/S、S/L、L/L型はそれぞれ45、21、2名であり、これら多型を有する各群間で初診時HAMD得点に有意差は認められなかった。
68名中9名が副作用、6名が原因不明で中断した。中断例を除いた53名中、12週目までに寛解した症例は32名、非寛解例は21名であった。
1) 5-HT1A受容体遺伝子多型と臨床効果との関係
Gly/Gly群とGly/Asp群で初診時と比較したHAMD改善率を検討したところ、治療開始2, 8, 10, 12週間後のHAMD改善率はそれぞれ25.4±26.9% vs 50.4±19.8%, 51.4±38.1% vs 70.9±18.7%, 57.5±40.9% vs 77.1±15.7%, 59.7±41.1% vs 80.0±14.8%であり、Gly/Asp多型をもつ群でそれぞれ有意に高かった(p<0.05)。Gly/Asp群では治療開始2週目においてすでにHAMD得点が50%改善しており、Gly/Asp多型をもつ個体では特に治療開始初期においてFLVに対する反応性が良いという可能性が示唆され、更にこの多型は最終的なHAMD改善率にも影響を与えていた。また、Asp/Asp多型の個体1名は嘔気の副作用のために12週間経過を追えず中断してしまったものの、初診時HAMD得点が28点から治療開始2週目には7点となっていた。Asp/Asp多型はGly/Asp多型よりも更にFLVへの反応性が高い可能性も考えられるが遺伝子型の頻度が少ないため、充分な評価を行うためには今後サンプル数を増やして検討する必要があると考えられる。
2) 5-HTTLPRと臨床効果との関係
寛解群、非寛解群それぞれにおいてS/S、S/LまたはL/L遺伝子型の割合に有意差はなかった。2週毎のHAMD改善の仕方をS/S型、S/LまたはL/L型で比較したが有意差は認められなかった。
[結語] 本結果より、5-HT1A受容体遺伝子多型がSSRIの初期臨床効果を予測する因子となると考えられた。
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