悪性症候群とド−パミンD2受容体遺伝子の機能的遺伝子多型との関連研究

岸田郁子1)、河西千秋1)、古野拓2)、加藤大慈1)、金井晶子1)、山田朋樹1)、山田芳輝1)
平安良雄1)
1) 横浜市立大学医学部精神医学, 2) 研水会平塚病院

[はじめに] 悪性症候群 (Neuroleptic Malignant Syndrome : NMS) には家族内発症例の報告があり、 脱水などの身体的発症危険因子がなくてもNMSを繰り返す患者が少なからず存在することから、 遺伝的に規定される発症危険因子 (遺伝的脆弱性) が存在すると推測されている。 すべての抗精神病薬はNMSを惹起する可能性があり、 共通してドーパミン受容体 (特にドーパミンD2受容体:DRD2) を遮断する作用を有する。 それゆえ、 DRD2の急激で強力な遮断作用がNMSの病態の中心と考えられており、 NMSの薬理遺伝学的研究において、 DRD2遺伝子が注目されてきた。
今回、 我々はDRD2の機能やDRD2遺伝子の発現に影響を与えることが示されている3つの遺伝子多型; TaqI A多型, -141C Ins/Del多型, Ser311Cys多型に注目し、 NMS症例において関連研究とハプロタイプ解析を行った。

[対象と方法] 対象は、 NMS罹患歴のある患者32例と, 抗精神病薬を1年以上服用している統合失調症患者でNMS罹患歴のない132例の対照群を用いた。 NMSの診断にはPopeらの診断基準 (1986) を用いた。 NMS群, コントロール群共に, 物質依存歴のある者は除外した。 本研究は横浜市立大学医学部倫理委員会の承認を受けており, 対象者の文書による同意に基づいて行なわれた。
患者の末梢血白血球から抽出したgenomic DNAを用いて、 Taq I A多型はGrandyら (1993), -141C Ins/Del多型はHoriら (2001), Ser311Cys多型はArinamiら (1994) の方法にそれぞれ従い, PCR-RFLP法を用いて、 全対象のDRD2遺伝子型を同定した。 NMS群と対照群の遺伝子型頻度、 アレル頻度を比較し、 さらに背景因子を考慮したロジスティック回帰分析も行った。 また、 NMS群において、 多型アレル保有者群 (A1、 Del、 Cysアレル保有者) と非保有者群の臨床背景を詳細に比較、検討した。 さらにArlequin Softwareを用いて、 3つの多型で構成されるハプロタイプについて解析を行った。

[結果] -141C Delアレル頻度はそれぞれ, NMS群で0.234, 対照群で0.117であり, NMS群においてDelアレル頻度が有意に高かった (p=0.026; odds ratio 2.30、 95%CI 1.16-4.59)。 また, 少なくとも1つのDelアレルを持つ、Delアレル保有者の頻度もNMS群で0.406, 対照群で0.205とNMS群で有意に高かった (p=0.022)。 背景因子を含めたロジスティック回帰分析でも同様の結果を得た (p=0.018; odds ratio 2.30、 95%CI 1.15-4.57)。 一方、 TaqI A多型, Ser311Cys多型では遺伝子型頻度、 アレル頻度とも2群間で有意差はなかった。
ハプロタイプ解析ではNMS群, 対照群間で有意差が認められ (p=0.03)、 さらに、 A2-Del-Ser組み合わせの頻度はNMS群で0.204、 対照群で0.060と推測され、 有意差が認められた (p=0.026; odds ratio3.25、 95%CI 1.71-6.16)。
また、 NMS群における臨床背景は性別、 年齢、 NMS発症年齢、 抗精神病薬の用量、 NMS複数回発症の有無ともに、 多型アレル保有者群と非保有者群間で有意な差異を認めなかった。

[考察] 我々はこれまで、 多数のNMS症例において、 CYP2D6遺伝子多型、 セロトニン受容体遺伝子多型といった薬物動態学と薬力学双方の観点から関連研究を進めてきた (Kawanishi et al., 1998, 2000, 2003)。 さらに我々はDRD2遺伝子についての関連研究を行い、 複数の遺伝子多型において検討をすすめてきたが、 今回、対象数を増やした関連研究から、 -141C Ins/Del多型がNMS発症に関与していることが示唆された。
-141C Ins/Del多型は、 in vitroの研究で、 DRD2遺伝子の発現に影響を与えることが示されており、 PET研究では線状体DRD2密度に影響を与えることが示されている。 これまでの臨床研究では、 統合失調症との関連や精神症状との関連のみならず、 抗精神病薬に対する治療反応性との関連も検討されている。 特にDelアレルの非保有者が、 抗精神病薬に対する不安−抑うつ症状の改善効果が高いという報告もあり、 この多型が何らかのかたちで薬物応答性に関与していることが示されている。 今回の我々の研究でも、 薬物を投与した際に、 -141C Delアレルの有無がNMS発症危険因子の1つとなり得る可能性が示唆された。
最近の研究では、Taq I A多型と-141C Ins/Del多型の組み合わせで、 抗精神病薬に対する陽性症状や不安抑うつ症状の改善効果を予測し得るという報告がある。 今回の研究で、 3つの多型で構成されるA2-Del-Serの組み合わせがNMS群で有意に多く見られ、 ハプロタイプ解析が、 薬物応答性の予測に有効である可能性が示された。 今後さらに症例を集積し、 検討をすすめるとともに、 ほかの遺伝子多型についても検討をすすめていきたい。

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